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虚血性僧帽弁逆流症 ブログトップ

虚血性僧帽弁逆流症 その8 [虚血性僧帽弁逆流症]

おわりに
 IMRは機序の解明は進んだものの,治療法は未だ確立していない.この疾患は症例数も多く,その程度が軽度でも有意に予後を悪化させるため現在もっとも重要な弁膜症の一つである.IMRの制御は麻酔科を含めた循環器領域に関わる人々にとって大きな課題であり,今後も症例の蓄積が期待されている.


(補足) TEEから見たIMR (ME AV LAX view)

僧帽弁は収縮期のtetheringによって弁輪位まで戻れず左室内に落ち込んでいる.



tetheringによって僧帽弁のcoaptationは悪化し,逆流が生じている.
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虚血性僧帽弁逆流症 その7 [虚血性僧帽弁逆流症]

4. IMRの術中管理
 IMRは前負荷,後負荷の影響を強く受け,特に全身麻酔によってIMRの程度は軽減するとされる.そのため一般的には麻酔導入後におけるIMRの制御は比較的容易であると考えられる.しかし,冠動脈疾患がベースに存在するため血圧が維持されない場合には,冠灌流圧が低下しtetheringが悪化する可能性がある.その結果IMRも重症化するため,後負荷の維持が重要になる.その一方で,IMRは後負荷が上昇することによりそれ以上に逆流の程度が悪化することが知られている1).よって術中は経食道心エコーを用いてIMRの程度を確認しながら血圧の維持を含めた循環管理を行うことが推奨される.冠動脈バイパス手術時におけるMRの悪化に対してミルリノンの使用が有効であるとの報告もあり,IMRの悪化が認められる場合にはミルリノンの投与も考慮する2).また,IABPは,冠灌流圧を維持し後負荷を軽減するため,IMRの制御に有効である.
 IMRに対して形成術を施行した症例では人工心肺から離脱する際に経食道心エコーによる僧帽弁の評価を行う.その際には僧帽弁逆流症の程度の評価だけでなく,僧帽弁の形態に関する計測(tethering length,tenting height,tenting area3,4))を行うことが望ましい.


【参考文献】
1) Levine RA et al: Circulation. 2005;112:745-58
2) Omae T et al: Anesth Analg. 2005;101:2-8
3) Otsuji Y et al: J Am Coll Cardiol. 2002;39:1651-6
4) Daimon M et al: Circulation. 2006;114(Suppl):I588-93
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虚血性僧帽弁逆流症 その6 [虚血性僧帽弁逆流症]

d. Tethering reduction surgery
 近年MAP単独では弁下部を含めた異常であるIMRの制御は難しいとの認識が広まり, tetheringそのものを是正する方法が考案されている.Menicantiらは経左室切開下に僧帽弁後尖弁輪部を縫縮すると同時に梗塞部と健常部の境界部にかけた糸を後乳頭筋基部に通し縫縮させることで両乳頭筋間距離を減少させるPapillary muscle imbricationを考案した1).またKronらは後乳頭筋にかけた糸を弁輪に固定し,後外側へ変位した後乳頭筋を選択的に持ち上げる方法を発表し,Hungらは乳頭筋の外側の心室をRemodelingし,心室壁ごと後外側への変位を是正する方法を考案している(図)2-4).Uenoらはそれらを発展させ,tetheringの原因となっている変位した後乳頭筋起始部の左室壁を乳頭筋が左室腔内へ突出するように形成しtetheringを軽減させる方法を提案した5).また,異なったアプローチとして,二次腱索を切離してtetheringを減少させる方法(Chordal cutting)も考案されている6).さらにMatsuiらは左室形成術であるOverlapping法に加えて両乳頭筋同士を逢着し,Tetheringを減少させる方法を報告した.この形成術は単なる左室容量を減少させるだけでなくTetheringの減少効果も同時に狙った方法である7)

図4b.jpg

【参考文献】
1) Menicanti L et al: J Thorac Cardiovasc Surg.123:1041-50
2) Kron ILet al: Ann Thorac Surg. 2002;74:600-1
3) Liel-Co hen N et al: Circulation. 2000;101:2756-2763
4) Hung J et al: Circulation. 2002;106:2594-600
5) Ueno T et al: Ann Thorac Surg. 2006;81:2324-5
6) Yamamoto H et al: J Thorac Cardiovasc Surg. 2005;130:589-90
7) Matsui Y et al: J Thorac Cardiovasc Surg. 2004;127:1221-3
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虚血性僧帽弁逆流症 その5 [虚血性僧帽弁逆流症]

3) IMRに対する外科的治療
a. 冠動脈バイパス手術
 IMRを合併する症例に対し,冠動脈バイパス手術による冠再灌流を行うとIMRが改善する可能性がある.これに対し,AklogらはIMRを合併する冠動脈バイパス手術施行患者対象に手術前後のIMRの程度の比較を行い,その結果IMRの有意な軽減を認めなかったと報告している1).一方,冠動脈バイパス手術によってIMRが改善する症例も存在するため,どのような症例に対して冠動脈バイパス手術が単独でも有効であるのかを検討する必要がある.

b. 僧帽弁置換術 (MVR)
 IMRに対する僧帽弁置換術または僧帽弁形成術は左室容量を軽減し,左室拡張末期圧を低下させ,左室一回拍出量を増加させ,心拍出量を増加させる.僧帽弁置換術は確実にこれらの効果が得られる方法である.遠隔期成績から評価した場合,mild以上のMRを残した場合の予後は不良であるとされるため,そのような症例に対しては躊躇せずに僧帽弁置換術を行う施設も多い.しかし,心機能低下症例の多いIMR合併症例では僧帽弁複合体の連続性を保持することは左室機能維持のために重要であり,僧帽弁の弁下部組織を含めた形成術の確立が待たれる.

c. 僧帽弁輪縫縮術 (MAP)
 僧帽弁輪拡大による弁尖のcoaptation lengthの減少に対して,弁輪拡大の解剖学的主体をなす後尖側弁輪を縫縮し,弁の前後径を短縮することによってcoaptation lengthを確保する方法である.特にBollingらは小さめのリングを用いた縫縮術によってより確実にIMRを制御できると報告し,小さめのリングの使用を推奨している2).これに対し Mihaljevicらは,IMRを合併する症例を冠動脈バイパス手術とMAPの同時手術を施行した症例と冠動脈バイパス手術を単独で施行した症例に分け,長期予後まで比較検討している3).その結果,周術期には同時手術を行った症例で有意に生存率が高いもののその後の生存率に差を認めなかったと報告している.また,MAPの同時手術を施行した症例でも術後1年以降高頻度にIMRの再発を認めたと報告している. Zhuらはこれらの報告を受け,次のような理論を展開している(図).彼等はMAP後IMRを再発した症例を対象に僧帽弁の形態学的な検討を行った.その結果,IMR再発症例では僧帽弁の接合面が増加せず左室のremodelingの進行に伴うtetheringの増強により容易にIMRが再発しすること4),また機能的僧帽弁狭窄症を発症する危険性があることをを明らかにした5).弁輪レベルの修復であるMAPでは弁下組織の変位に起因するtetheringの抜本的改善を望むことができないことを示唆している.

図3.jpg

【参考文献】
1) Aklog L et al: Circulation. 2001;104(Suppl):I68-75
2) Bolling SF et al: J Thorac Cardiovasc Surg. 1998; 115: 381
3) Mihaljevic T et al: J Am Coll Cardiol. 2007;49:2191-201
4) Zhu F et al: Circulation. 2005;112(Suppl):I396-401
5) Kubota K et al: J Thorac Cardiovasc Surg. 2010 Jan 30
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虚血性僧帽弁逆流症 その4 [虚血性僧帽弁逆流症]

2. IMRの評価
 IMRは,心筋梗塞の既往があり僧帽弁に器質的異常がないが,僧帽弁逆流があり弁の閉鎖位置が心尖方向に変位していることで診断される.”心筋梗塞後の左室の進行性のremodelingによる乳頭筋付着部左室壁の外側への変位によるtetheringに起因する閉鎖不全である”と定義される.しかし,IMRはその変動が大きく検査によっては見落とす可能性がある.また,運動負荷試験により予後の予測が可能であることが報告されており,運動負荷により逆流が改善する症例では予後はよく,逆流の程度が悪化する症例では予後は不良であるとされている.よってIMRの評価は運動負荷試験を含め経時的に行う必要があるものと思われる1,2).また,IMRは前負荷,後負荷の影響を受けやすく,特に全身麻酔によってIMRの程度は半減すると報告されている3).このため,手術中のIMRの評価に関しては過小評価する可能性があることを念頭におく必要がある.

【参考文献】
1) Lancellotti P et al: J Am Coll. 2003;42:1921-8
2) Lancellotti P et al: Circulation. 2003;108:1713-7
3) Levine RA et al: Circulation. 2005;112:745-58
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虚血性僧帽弁逆流症 その3 [虚血性僧帽弁逆流症]

b. 乳頭筋不全
 乳頭筋機能不全は,Burchらによって提唱された概念である(図2)1,2).このため古くからIMRは乳頭筋不全症候群と呼ばれ乳頭筋の機能低下がIMRの原因であると考えられてきた.しかし,乳頭筋機能不全単独では僧帽弁逆流が出現しないことが動物実験で示され,さらにIMRでは僧帽弁逸脱はほとんどみられないことも報告さている3,4).このため現在では乳頭筋機能不全はIMRの原因でないとされている.

c. 僧帽弁輪拡大
 僧帽弁輪拡大は虚血性僧帽弁逆流を悪化させる因子であるが,虚血性僧帽弁逆流に弁輪縫縮術を行い弁輪が正常よりむしろ小さくなっても逆流が消失しない症例の報告が多くなされている.上述したように左室拡大はIMRの原因の一つであると考えられるが,実際の虚血性僧帽弁逆流を有する臨床例は弁輪拡大も左室拡大も両方認められることが多く,弁輪拡大の僧帽弁機能に及ぼす影響を評価することは難しい.孤立性心房細動例は,左室拡大はないが左房拡大が出現することが知られ,僧帽弁輪拡大が単独で出現している.そこでOtsujiらは孤立性心房細動の僧帽弁と拡張型心筋症の僧帽弁を比較検討した5).その結果,どちらも同程度の僧帽弁輪拡大を認めたが,孤立性心房細動では僧帽弁逆流は軽度であり,拡張型心筋症では重症僧帽弁逆流症が出現していた.このことから弁輪拡大単独では強い僧帽弁逆流は出現せず,弁輪拡大は虚血性僧帽弁逆流の比較的弱い決定因子であると考えられる.
 以上より左室機能低下,僧帽弁輪拡大,乳頭筋不全はIMRの主因ではなく,IMRの主な原因は左室拡大に伴うtetheringであることがわかってきた.さらに心室の全体的な拡大より下壁梗塞などに伴う後乳頭筋周囲のremodelingに伴う局所的な拡大の影響が大きいことが確認されている.

図2.jpg

【参考文献】
1) Burch GE et al: Arch Intern Med. 1963; 112:112-7
2) Burch GE et al: Am heart J. 1968; 75: 399-415
3) Matsuzaki M et al: J Cardiol Suppl.1988;18:121-6
4) Izumi S et al: Circulation. 1987;76:777-85
5) Otsuji Y et al: J Am Coll Cardiol. 2002;39:1651-6
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虚血性僧帽弁逆流症 その2 [虚血性僧帽弁逆流症]

1. IMRの機序
 IMRの機序に関しては古くから様々な説が提唱され,現在まで左室機能低下,左室拡大,乳頭筋機能不全,弁輪拡大などが主因であるとされてきた.

a. 左室機能低下
 僧帽弁の閉鎖位置は収縮期左室圧による弁閉鎖作用(closing force)と腱索による弁尖を左室に牽引する作用(tethering force)のバランスのとれた所で決定されると考えられる1).したがって,IMRにみられる閉鎖弁尖の心尖方向への変位は左室機能の低下(closing forceの減少),あるいは,左室拡大により乳頭筋が外側へ変位し弁尖を強く牽引する(tethering forceの増強)のいずれかが原因である可能性が高い(図1)1).このため,古くからIMRの原因として左室機能低下が主因であると考えられてきた.しかし,実際には左室機能低下症例では左室拡大を来していることが多く見受けられ,どちらが主因であるかはわかりにくい.Ostujiらは動物実験モデルで①左室拡大のない高度な心機能低下および,②有意な左室拡大を伴う左室機能低下を別々に作成し検討を行った2).その結果,左室拡大の少ない高度の左室機能低下ではほとんど僧帽弁逆流がみられず,有意な左室拡大を伴う左室機能低下では重度の僧帽弁逆流がみられた.このことから左室機能低下自体でなく,左室拡大がIMRの主因であるとした.
 Kumanohosoらは, IMRとtetheringとの関係についてもう一歩踏み込んだ報告をしている3).彼等は心筋の梗塞部位によってIMRの発症頻度に差が生じるかどうか検討しその結果,下壁梗塞では左室拡大が前壁梗塞より軽度であるのに僧帽弁逆流はより重症であることを確認したとしている.このことは現在まで乳頭筋機能低下という概念で説明されてきた.しかし左室全体のリモデリングは下壁梗塞では前壁梗塞より軽度であり左室拡大も軽度であるが,僧帽弁複合体付近の局所的なリモデリングは下壁梗塞でより高度であるため,これが下壁梗塞でよりtetheringが強く僧帽弁逆流が頻発する機序であると彼等は結論付けている.

図1.jpg

【参考文献】
1) Levine RA et al: Circulation. 2005;112:745-58
2) Otsuji Y et al: Circulation. 1997;96:1999-2008
3) Kumanohoso T et al: J Thorac Cardiovasc Surg. 2003;125:135-43
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虚血性僧帽弁逆流症 その1 [虚血性僧帽弁逆流症]

はじめに
 虚血性僧帽弁逆流症(Ischemic mitral regurgitation: IMR)は,心筋梗塞発症後に認められる僧帽弁逆流症である.虚血性心疾患を背景に持つ本疾患は増加傾向にあり,さらにその逆流が軽度でも予後が有意に悪化するとされ,現在最も注目される疾患の一つとなっている.我々麻酔科医も周術期を通して本疾患に接する機会が増えている.本稿では,機序,評価,治療,周術期管理に分けIMRについて概説する.
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