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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その10 [PBLD]

【手術は終了し麻酔から覚醒・抜管後,集中治療室へ入室した.】

【問題1】
  術後管理に関して適切なものは? (複数選択可)

1. 抗血小板薬は早期に再開する
2. ヘモグロビン濃度は12g/dl以上を維持する
3. 発作性心房細動の治療にはジギタリスが第一選択である
4. 周術期心筋梗塞の特徴は非Q波心筋梗塞である
5. 心筋虚血による心電図変化は壁運動異常に先行する

【解説】
1. 抗血小板薬
 本症例はDES留置後4ヶ月しか経過していない.飲水開始まではヘパリン投与,飲水開始とともに抗血小板薬二剤併用療法を再開する.

2. 周術期ヘモグロビン値管理
 周術期の輸血に関しては慣習的に10/30ルール(ヘモグロビン値10g/dL,ヘマトクリット30%)維持が行われていた.しかし,ヘモグロビン値を高め(10-12g/dL)に維持しても低め(7-9g/dL)で管理しても予後は変わらず,むしろリスクが低い症例では低めに維持すると予後が良好であることが報告され1)赤血球輸血の適応は見直されることとなった.一方,高リスク症例では低リスク症例よりも高めのヘモグロビン値維持が必要であると予想される.心疾患を合併した症例ではヘモグロビン値が8g/dLを下回ると死亡率が2.5倍に高まることが報告されている2)ことから本症例では8-10g/dLの維持が望ましい.

3. 周術期心房細動
 術後心房細動は,開心術術後の最も頻度が高い合併症であるが,非心臓手術でもしばしば発症する.術後心房細動は周術期に一時的に発症するだけで生命予後に影響を及ぼすことは少ないと考えられてきたが,発症すると在院日数の延長だけでなく脳梗塞発症率は3倍になり,周術期死亡率も悪化する3).また周術期だけでなく遠隔期予後も悪化することが報告されている4).このため術後心房細動の予防法の確立が急務となっている.
術後心房細動の予防薬剤として従来は非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ジギタリスが使用されてきた.しかし,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬が術後心房細動の予防に有効であると報告される一方,房室ブロックや心不全の原因になりやすいとされ,現在は安全が確認されるまでCa拮抗薬の予防的投与は慎重にすべきとされている5). ジギタリスは,心抑制がないため,従来から循環動態が不安定な周術期に使用されてきた.一方,交感神経系の緊張が術後心房細動の一因であることが明らかになり,現在では副交感神経に作用するジギタリスは術後心房細動に対する効果が得られにくいと考えられている5).現在,術後心房細動の予防薬としてβ遮断薬,治療薬としてⅠ群抗不整脈薬・β遮断薬などが使用されている.

4. 周術期心筋梗塞
 周術期心筋梗塞は非Q波心筋梗塞を特徴とする.Q波はST上昇に遅れて出現する(数時間-12時間).このため周術期心筋梗塞初期には確認されないことが多い.

5. ischemic cascade
 虚血による壁運動異常は心電図変化に先行する (図).よって心筋虚血は心電図より先にエコーで検出可能である.

【解答】 1,4

PBLD09症例解説.jpg
              図. ischemic cascade

【参考文献】
1) Hebert PC et al. N Engl J Med 1999;340:409-17
2) Carson JL et al. Transfusion 2002;42:812-8
3) Villareal RP et al: J Am Coll Cardiol. 43 :742-8,2004
4) Almassi GH et al: Ann Surg. 226 :501-11,1997
5) Echahidi N et al : J Am Coll Cardiol. 2008;51:793-801
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その9 [PBLD]

【問題9】
 本症例では麻酔薬として薬理学的プレコンディショニング作用を持つセボフルランを使用した.プレコンディショニングについて間違っているものは?

1. 虚血プレコンディショニングは薬理学的プレコンディショニング作用とメカニズムが共通している.
2. β遮断薬はプレコンディショニング作用を持っている.
3. PDEⅢ阻害薬はプレコンディショニング作用を持っている.
4. 糖尿病はプレコンディショニング作用を減弱する.
5. オピオイドはプレコンディショニング作用を持っている.

【解説】
 虚血プレコンディショニングとは先行する短時間虚血により耐性を生じ,後の長時間虚血において虚血再灌流障害の軽減が得られる現象と定義される1).プレコンディショニングに関するメディエータとしてアデノシン,PKC,ROS,NO,エフェクタとしてATP感受性Kチャネル,mPTPが重要である.この先行虚血の代わりにミトコンドリア代謝を制御してプレコンディショニング作用獲得することを薬理学的プレコンディショニング作用という.薬理学的プレコンディショニング作用を持つ薬剤としてアデノシン受容体作動薬,KATPチャネル開口薬,揮発性麻酔薬,PDEⅢ阻害薬などがある.オピオイドにもプレコンディショニング作用が報告されている2).しかしプレコンディショニング作用を獲得するためには臨床使用濃度の数倍から数十倍の投与量が必要であるためこの目的での使用は難しい.
 一方,薬理学的プレコンディショニングは加齢,糖尿病,高コレステロール血症などで作用が減弱することが報告されている3).またβ遮断薬もプレコンディショニング作用を打ち消す可能性が示唆されている4)

【正解】 2

【参考文献】
1. Murry CE et al: Circulation 1986;74:1124-36
2. Zhang Y et al: Anesthesiology 2004;101:918-23
3. Mio Y et al: Anesthesiology 2008;108:612-20
4. Lange M et al : Anesthesiology. 2008;109:72-80
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その8 [PBLD]

【問題8】
 バイオマーカーの中で心筋梗塞の診断に最も有用なものは?

1. CK-MB
2. トロポニンT
3. NT-proBNP
4. ヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク質(HFABP)
5. ミオグロビン

【解説】
1.CK-MB
 CK-MBは発症4時間から上昇し,12-24時間でピークに達する.その後48-72時間には正常値にもどる.
心筋への特異性が高いが骨格筋にも含まれており,筋ジストロフィー,横紋筋融解症,皮膚筋炎,甲状腺機能低下症などで上昇することがある.また,虚血発症後3日で正常値に戻るため,発症からの時間が長い場合には評価が困難なこともある.このため近年ではgold standardの地位を心筋トロポニンに譲っている1)

2. 心筋トロポニンT
 心筋特異性が高く,正常では検出されない.発症4時間より上昇し,12-24時間でピークに達する.その後心筋トロポニンTは10-14日検出される.以前は心筋トロポニンが腎代謝であることから腎機能障害合併症例では正常でも検出される可能性があるとされていた.しかし現在では腎機能障害合併症例では潜在的に心筋障害を認める症例が多いためトロポニンが検出されると理解されている1)

3. NT-proBNP
 BNPはMI発症後24時間までにピークに達し,その値は梗塞サイズに比例する.また,ピークのBNP値が予後の予測因子であるとの報告も認められる.一方で,基本的にはBNP,NT-proBNPは心不全のバイオマーカーであり,急性冠症候群では心筋トロポニンを補完する立ち位置にあると考えられる2)

4. ヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク質(HFABP)
 ヒト心臓由来脂肪酸結合タンパク質(HFABP)は発症 2時間以内の心筋障害が診断可能である.HFABPは脂肪酸結合蛋白(FABP)を心筋特異抗体によって分別定量したものであるが,骨格筋にも含まれているため心筋特異性は必ずしも高くない1)

5. ミオグロビン
 ミオグロビンも早期より検出される(1-3時間)が,骨格筋にも多く含まれているため心筋特異性は低い1)

【解答】 2

【参考文献】
1) Morrow DA et al. Circulation. 2007;115:e356-75
2) Tang WH et al. Circulation. 2007;116:e99-109
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その7 [PBLD]

【問題7】
 動脈を損傷し大出血をしている.心拍数は110/min,血圧は68/46mmHg,ECG上0.3 mVのST低下を認めた.適切な処置は? (複数選択可)

1. ニトログリセリン投与
2. エフェドリン投与
3. β遮断薬投与
4. ノルアドレナリン投与
5. PDEⅢ阻害薬投与

【解説】
 虚血性心疾患では心筋酸素需給バランスが悪化しやすい.設問6では交感神経緊張による血圧・心拍数の上昇から心筋酸素需給バランスが乱れ,ST低が生じている.一方,本設問では循環血液量の低下から血圧・冠灌流圧が低下しST変化が生じていると考えられる.ニトログリセリンの周術期投与に関しては循環動態の安定を確認して投与することが推奨されている1).特に循環血液量が低下している症例では冠血管拡張作用の効果以上に血行動態の悪化が顕著になる可能性がある.よって本シチュエーションでの投与は避けた方がよい.β遮断薬は陰性変時・変力作用があり,心筋酸素需給バランスを改善する.しかし,本設問は循環血液量低下から交感神経系が緊張し血行動態を維持している状態である.β遮断薬投与は交感神経系を抑制するため投与によって循環はさらに悪化する可能性が高い.PDEⅢ阻害薬は強心薬であるが,投与によって心拍数が増加しにくいため心筋酸素消費量への影響は少ない.一方で血管拡張作用が強いため血圧が低下しやすく投与は避けたい.
輸液・輸血を行いながら血管収縮薬によって冠灌流圧を維持することが望ましい.

【解答】 4

【参考文献】
1) Fleisher LA et al: Circulation. 2009;120:e169-276
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その6 [PBLD]

【問題6】
 手術が開始された.皮膚切開後,血圧は上昇し(160/94mmHg),心拍数も上昇(128/min)した.心電図上0.3mVのST低下を認めた.TEE上EFは45%,収縮期右室圧は48mmHgであった.まず行うべき処置は? (複数選択可)

1. ニトログリセリン投与
2. フェンタニル投与
3. β遮断薬投与
4. ジルチアゼム投与
5. PDEⅢ阻害薬投与

【解説】
 虚血性心疾患では心筋酸素需給バランスが悪化しやすい.本症例も交感神経緊張による血圧・心拍数の上昇から心筋酸素需給バランスが乱れ,ST低下・EF低下・肺動脈圧上昇が生じている.周術期心筋虚血のパラメーターとしてはRate-pressure product1),血圧/心拍数指数2),心拍数が提案されている.Rate-pressure productは心拍数と平均動脈圧との積,血圧/心拍数指数は血圧を心拍数で除した値であり,1.0未満が心筋虚血と関連すると報告されている.しかし,Rate-pressure product,血圧/心拍数指数ともに一長一短があり,心拍数単独で心筋虚血の指標とすることも多い.頻脈(心拍数>100/min)で心筋虚血発症率は3倍になると報告され3),近年のメタ解析では周術期の心拍数を100/minで管理することによって周術期心筋梗塞の発症が減少した(OR 0.23;95%CI 0.08-0.65)と報告されている4).β遮断薬は心拍数を低下させることによって心筋酸素需給バランスを改善する. ジルチアゼムもβ遮断薬と同様に心拍数低下作用があるがβ遮断薬と比較するとその作用は弱い.
冠灌流圧(CPP)と拡張期圧(DBP),左室拡張末期圧LVEDP)との関係は
                 CPP=DBP-LVEDP
で表わされる.ニトログリセリンは前負荷(LVEDP)を低下させることによって冠灌流圧(CPP)を維持する.
フェンタニルは投与から作用発現まで4分程度かかるため手術執刀前の投与が望ましい.PDEⅢ阻害薬は強心薬であるがカテコラミンと比較して心筋酸素消費量への影響は少ない.しかし需給バランスが乱れている本シチュエーションでの使用は避けたい.

【解答】 1,3

【参考文献】
1) Roy WL et al : Anesthesiology. 1979;51:393-7
2) Buffington CW : Anesthesiology. 1985;63:651-62.
3) Slogoff S et al : Anesthesiology. 1985;62:107-14
4) Beattie WS et al : Anesth Analg. 2008;106:1039-48
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その5 [PBLD]

【問題5】
 術中のモニタリングとして有用なものは? (複数選択可)

1. 中心静脈圧
2. 経食道心エコー
3. トロポニンT
4. NT-proBNP
5. 心電図

【解説】
1. 中心静脈圧
 中心静脈圧は右心系の前負荷の指標であるが,虚血性心疾患に対する鋭敏な指標にはなりにくい.特に低容量では輸液反応性の予測には静的パラメータは有効ではない1),敗血症症例ではCVP,PCWPと輸液反応性との関連は薄く2),輸液負荷の指標としてはSVV1),PVI3)などの動的パラメータが有用であると報告されている.このことは,心室コンプライアンス曲線からも裏付けられる(図).循環血液量が不足している状態では容量が圧に反映されにくいため,圧を容量の指標として代用することが難しい.

2. 経食道心エコー
 心臓手術では経食道心エコーの使用は一般的になっている.非心臓手術に関しても今回のガイドラインにおいて新規に推奨されている(ClassⅡa; LOE C)4).経食道心エコーは心筋虚血の検出精度が高いため,本症例のように虚血性心疾患を合併する症例では有用である.

3. トロポニンT
 非心臓手術のための心血管系評価・管理のガイドラインにおいて術後胸痛や心電図変化のある患者に対して術後にトロポニンTの測定を行うことが推奨されている(Class; LOE C)4).トロポニンTは発症4時間より上昇し,12-24時間でピークに達し10-14日検出される.迅速性に欠けるため術中のモニタリングとしては弱いが,周術期心筋梗塞のモニタリングとして有用である.

4. NT-proBNP
 急性冠症候群においてもBNP,NT-proBNPがトロポニンとは独立した危険因子である.また,安定狭心症症例においてもNT-proBNPは予後規定因子となりうると報告されている5).一方で,基本的にはBNP,NT-proBNPは心不全のバイオマーカーであり,急性冠症候群では心筋トロポニンを補完する立ち位置にあると考えられる.

5. 心電図
 非心臓手術のための心血管系評価・管理のガイドラインにおいて冠疾患患者や血管手術を受ける患者に対して術中・術後STセグメントモニタリングを行うことが推奨されている(ClassⅡa; LOE B)4).Ⅱ誘導とV5誘導を併用することで12誘導で検出される心電図変化の80%が検出できる6).さらにV4誘導単独で83.3%検出できたとの報告もある7).心電図とSTセグメント解析は必須モニタである.

【解答】 2,5

CO測定.jpg
           図.心室コンプライアンス曲線

【参考文献】
1) Michard et al: Chest. 2002;121:2000-8
2) Osman D et al: Crit Care Med. 2007;35:64-8
3) Cannesson M et al: Br J Anaesth. 2008;101:200-6
4) Fleisher LA et al: Circulation. 2009;120:e169-276
5) Tang WH et al: Circulation. 2007;116:e99-109
6) London MJ et al: Anesthesiology. 1988;69:232-41
7) Landesberg G et al: Anesthesiology. 2002;96:264-70
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その4 [PBLD]

【問題4】
 麻酔はセボフルランとレミフェンタニルによる全身麻酔を選択した.
手術室搬入時の血圧は130/80mmHg,心拍数は76/minであった.麻酔導入前にペースメーカーのチェックを行った.ペースメーカーの設定はVDD,自己の心拍数(心室)は40/minであった.手術中のペースメーカーの設定は?

1. VOOに変更する
2. DOOに変更する
3. VVIに変更する
4. offにする
5. 変更しない

【解説】
 手術前にはペースメーカーのチェックを行う.チェック項目は装置の種類,自己の心拍数,モード,電池の残量である.ペースメーカー装着症例では電気メスによる電磁波干渉が大きな問題となる.電磁波干渉の対策としては可能であれば双極電気メスを使用する,最小のエネルギーレベルで電気メスを使用する,ペースメーカーから離れた場所で電気メスを使用する,単極電気メス使用の際はペースメーカーをはさまないように対極板と電気メスを配置する,などの処置が有効である1)
一般的にはペースメーカー依存性の徐脈患者では自己心拍数より速い心拍数による非同期ペーシング(VOO,DOO)で管理することが推奨されている.その一方,非同期ペーシングによる管理ではR on T・VFの危険性が排除できないため,体外式除細動器などの準備が必要となる.本症例は下腹部に対する手術である.対極板を大腿に配置することでペースメーカーへの電磁波干渉の影響を少なくできる.自己の心室心拍数も40/minあるので,電磁波干渉によってペースメーカーが作動しない場合にも心拍出は維持される.ペースメーカーの設定は変更せずに(VDD)麻酔管理を行う.
 ペースメーカー装着症例の他の注意点としてレート応答機構が設定されている場合には解除し,術後再設定を行うこと,ICDも術中は動作停止状態にすることがあげられる.

【解答】 5

【参考文献】
1) Fleisher LA et al: Circulation. 2009;120:e169-276
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その3 [PBLD]

【問題3】
 術前使用薬のクロピドグレルは中止したが,アスピリンは継続した.そして抗凝固療法としてヘパリンを併用している.適切な麻酔法は?

1. セボフルラン+硬膜外麻酔
2. プロポフォール+フェンタニル
3. プロポフォール+レミフェンタニル
4. セボフルラン+フェンタニル
5. セボフルラン+レミフェンタニル

【解説】
硬膜外麻酔
 抗血小板薬はチクロピジン・クロピドグレルなどのチエノピリジン系の薬剤とアスピリンを含むNSAIDsの2種類に分類される.チエノピリジン系薬剤を服用している症例に対して硬膜外麻酔を施行する場合,10-14日前に薬剤投与を中止する.一方,NSAIDsを投与していても硬膜外麻酔施行時の硬膜外血腫は増加しないが1),ヘパリン併用によって血腫形成の危険率はNSAIDs単独投与時の10倍に上昇する.本症例は抗血小板薬二剤併用療法からアスピリンとヘパリンの併用療法に変更して術前管理を行っている.血腫形成の危険性が高いため硬膜外麻酔は行わない.

セボフルランvs プロポフォール
 セボフルランはCABGにおけるプロポフォール等の静脈麻酔薬との比較において左心機能を改善2),低心機能症例で有用3),ICU滞在期間,入院期間の短縮4)などの予後改善効果が報告され,非心臓手術のための周術期心血管系評価・管理ガイドライン5)においてもClassⅡaで推奨されている.この作用はミトコンドリア代謝を制御し心保護作用を得る薬理学的プレコンディショニングで説明されている.その一方で吸入麻酔薬は心筋収縮を抑制するため,不全心では吸入麻酔薬の使用は避けた方がよい.また,体外循環使用時,手術室から集中治療室への移動には代替の麻酔・鎮静法を考慮する必要がある.
 プロポフォールは抗酸化作用,抗炎症作用を持つ.心筋障害6),再灌流時のアポトーシスの軽減の報告7)もあるが,吸入麻酔薬と比較すると心保護作用は弱い.プロポフォールも循環抑制作用があるが,心筋酸素消費量も減少し心筋酸素需給バランスは維持されるため,心機能の低下した症例でも使いやすい麻酔薬である.

フェンタニル vs レミフェンタニル
 レミフェンタニルの導入によって最も期待されるのはファーストトラック管理の推進である.ファーストトラック管理には人工呼吸関連合併症,鎮痛薬投与,中枢神経合併症,カテーテル早期抜去による合併症の減少が期待されているが,現在のところ医療経済的な効果のみが証明され転帰を改善したとの明らかな報告は認められない.

【解答】 2-5

【参考文献】
1) Horlocker et al: Reg Anesth Pain Med 2010;35: 64-101
2) De Hert SG et al: Anesthesiology 2002;97:42-9
3) De Hert SG et al: Anesthesiology 2003;99:314-23
4) De Hert SG et al: Anesthesiology 2004;101:299-310
5) Fleisher LA et al: Circulation, 2009;120:e169-276
6) Xia Z et al: Anesth Analg 2006;103:527-32
7) Luo T et al: Anesth Analg 2005;100:1653-9
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その2 [PBLD]

【術前生化学検査で血清クレアチニン値の上昇(2.2mg/dL)を認めた.また,心エコー検査では壁運動,弁の異常を認めず,左室駆出率は60%であった.】

【問題2】
 術前・術中使用薬について正しいものは?

1. アスピリンは手術10日前に中断する.
2. 経皮吸収ニトログリセリン製剤を麻酔導入前より貼布する.
3. 麻酔導入前よりニコランジル投与を行う.
4. 手術10日前よりβ遮断薬を開始する.
5. 腎保護のためドパミン低用量投与を行う.

【解説】
1.PCI後の抗血小板療法
 PCI施行によって手術・周術期管理は制限を受ける.ACC/AHA非心臓手術のための周術期心血管系評価・管理ガイドライン1)ではPCI後の手術と周術期抗血小板療法に関して下図に記載した管理が推奨されている.
 本症例にこのチャートを適用すると手術を8ヵ月延期しなければならない.しかし本症例のような悪性疾患に対する手術を8ヵ月延期することは難しいことから抗血小板薬二剤併用療法の代替療法が必要となる.DES留置症例に対する周術期の抗血小板療法に関してエビデンスは確立していないが,現時点ではアスピリンとヘパリンの併用療法が推奨されている2)

2.ニトログリセリン予防的投与
 ニトログリセリンは抗狭心症薬として広く使用されているが,周術期予防的投与に関してはその有用性は認められていない3).ACC/AHAのガイドライン1)でもClassⅡb(LOE C)の推奨である.麻酔で使用する薬剤には血管拡張作用を持つものが多く血管内容量が不足しやすい.ニトログリセリンを投与することによってさらに前負荷が減少し血圧・冠灌流圧は低下する可能性がある.ニトログリセリン使用の際は血管内容量と血管拡張に注意が必要である.

3.ニコランジル予防的投与
 ニコランジルは硝酸薬とK+チャネル開口薬のハイブリッド薬である.冠血管拡張薬であるが容量血管への作用は少ないため循環動態への影響は少ない.このため予防的投与が有効である可能性が高いがエビデンスとしては確立していない.

4.β遮断薬の周術期投与
 POISE study4)以降周術期β遮断薬の投与は見直されている.現在のACC/AHAガイドライン1)では周術期β遮断薬の投与に関して長期投与症例は投与継続(ClassⅠ),血管手術・高リスク症例ではβ遮断薬の投与を推奨(ClassⅡa)となっている.投与の際も徐脈・低血圧に注意すること,術前7日以上前から投与を開始し投与量をtitlationすることが推奨されている5).本症例は高リスク症例であるため周術期のβ遮断薬投与が推奨される.さらに術前10日前より投与量をtitlationすることによってβ遮断薬投与による副作用(徐脈・低血圧・脳梗塞)を回避することが期待される.

5.ドパミンの腎保護作用
 低用量のドパミンを投与しても腎機能,予後を改善しない6,7).さらに本症例は虚血性心疾患を合併しているため腎灌流圧・血流維持に使用する薬剤はカテコラミンよりノルアドレナリンの方が望ましい.

【解答】 4

図. PCIが行われた症例に対する手術のタイミング
プレゼンテーション1.jpg
【参考文献】
1) Fleisher LA et al: Circulation. 2009;120:e169-276
2) Newsome LTet al: Anesth Analg. 2008;107:570-90
3) Ali IS et al: Am Heart J. 2004;148:727-32
4) POISE Study Group: Lancet. 2008;371:1839-47
5) Poldermans D et al: Anesthesiology. 2009;111(5):940-5
6) Bellomo R et al: Lancet. 2000;356:2139-43
7) Friedrich JO et al: Ann Intern Med. 2005;142:510-24
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PBLD 虚血性心疾患を合併した症例に対する非心臓手術の麻酔 その1 [PBLD]

【症例は75歳,男性.便潜血検査で陽性,精査にて直腸がんと診断された.65歳時に狭心症の診断,70歳時には完全房室ブロックに対してペースメーカー埋め込みを行っている. 4ヵ月前に不安定狭心症を再発し冠動脈インターベンションを施行,その際drug-eluting stentが留置された.術後の経過は良好である.現在抗血小板薬(アスピリン,クロピドグレル)を服用している.】

【問題1】
  周術期心臓合併症に関して適切なものは?

1. 周術期心筋梗塞の発生が最も多いのは術後2-3日である
2. 周術期心筋梗塞は非心臓手術全体の5%に発症する.
3. 周術期心筋梗塞の予後は比較的良好である.
4. 術中冠虚血は心臓大血管手術よりも開腹術で最も多い.
5. 開腹手術はACC/AHA周術期心血管系評価・管理ガイドラインにおいて高リスク手術に分類される.

【解説】
1. 以前より周術期心筋梗塞(PMI)は術後3-5日に発症しやすいと考えられてきた.しかしバイオマーカー(特にトロポニン値)の詳細な分析の結果,ほとんどのPMIは術後24-48時間に始まることが明らかになっている1)

2,3. 本邦では非心臓手術において虚血性心疾患を合併している割合は3.1-3.9%である.また虚血性心疾患を合併している症例における周術期心合併症の発症率は13.2-16.4%,周術期心筋梗塞の発症率は約1%(全症例の0.03-0.04%)であると報告されている2,3).周術期心筋梗塞を発症すると予後は不良であり,発症後の死亡率は30-70%に達する1)

4. 術前合併症としての虚血性心疾患の合併は心臓大血管手術症例が最も多い.術中冠虚血の発症率は心臓血管手術で最も高いが,開腹術は症例数が多いため発症数は開腹術で最も多い4).このことから開腹術でもcoronary careを念頭に置いた麻酔管理が必要である.

5. ACC/AHA周術期心血管系評価・管理ガイドラインは非心臓手術における心合併症危険度を血管手術(心合併症発症が5%以上),中リスク手術(心合併症発症が1-5%),低リスク手術(心合併症発症が1%未満)の3つに分類している5).開腹手術は開胸手術とともに中リスク手術に分類されている(表).

【正解】 4

Book1.jpg

【参考文献】
1. Landesberg G et al. Circulation. 2009;119:2936-44
2. 山田達也ほか. 麻酔. 2000;49:673-9
3. 岩出宗代ほか. 麻酔. 2000;49:796-801
4. 入田和男ほか. 麻酔. 2003;52:304-19
5. Fleisher LA et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:e13-e118
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